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八雲家は広い。元々由緒ある剣道の名家だけあって立派なものである。
母家は豪華な和風旅館を思わせる作りに、その離れには、小学校の体育館並みの大きさの道場と大きな蔵、おまけに鯉が10匹泳ぐ池付きの中庭まである。外周だけでも、軽くマラソンコース並みの広さを有する。
今は両親、祖父母、ツクモと使用人が3名で生活している。
ツクモが家に着くと、中庭の鯉に餌を撒いている使用人の老人に挨拶される。
「おはようございます九十九様」
「おはよう」
ツクモは軽く返事を返すと、目線を合わせず足早に家の中へ入っていく。
どうやらお坊ちゃん扱いが苦手なようだ。
ツクモは、自分の部屋に着くと竹刀をかたし、舞から渡されたコンビニ袋を片手に、以前はムサシが使っていた部屋に向かう。
部屋には、勉強机とベッド、あとは一際大きな本棚がある。
人が住んでいる生活の匂いは、全く感じられない程、綺麗に片付いた部屋だった。
ツクモは、舞から渡された袋から漫画本を取り出すと、そっと本棚に差し込み、小さな声で呟く。
「お前が居なくなってもう3年か。読んでくれる主がいないとこの本棚も可哀想だぞ」
ツクモはおもむろに視線を下げる。その目には悲しみの色が強く映っていた。
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