第一章 英雄の条件

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よう、お前ら。この世界が好きか? 俺は嫌いだ。 特に今は最悪だ。 なんせ腹にナイフが刺さったままで、血が流れ続けて止まらない。 その上、人気のない公園で雨に打たれながら仰向けだ。 誰がどう見たって幸福だとは言い難いだろう。 血と一緒に体温が流れ出し、おまけに冷たい雨が容赦なく全身を濡らしている。 もう指一本動かせない。 救急車やパトカーのサイレンの音はいつまで経っても聞こえやしない。 畜生、通報ぐらいしてくれてもいいだろうに。 ああ、きっともうダメなんだろうな。 死を目前にしながら、俺は不思議なくらい冷静だった。 そりゃそうか。 俺は死にたいと、ずっと思っていたからな。 苦痛に満ちた二十三年間の人生に、ようやく幕を降ろせるのか。 そう自分を納得させた途端、今度は生への渇望が湧き起こる。 くそっ! これで本当に終わりかよ! こんなことで終わりか! 悔しさが憎悪に変わり、世界へと向けられたが、それで何かが変わるわけでもない。 人間とはなんて小さな存在なんだ。 人生の最後に悟りを得て、この俺、葉島光作は永遠に醒めない眠りの世界へと墜ちていった。
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