大和撫子

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「ちょっと、君!」 女性の頭上で、時雨の声が響く。 「すみませんが、ここ。片付けといてください」 時雨はたまたま通りかかった従業員にそう伝えると、今度は涙目になる女性のほうを向く。 「貴方はこっちです」 時雨はそう言うと女性を当主室に招いた。 「そこに座っていてください」 言われるがままに座り、時雨の様子を伺う。 「手を出してください」 そう言われ、女性はためらいがちにも手を差し出した。 「……さっき、怪我をした手を出してください」 「あ/// すいません……」 女性は自分の馬鹿さ加減に顔を真っ赤にする。 そんな顔を隠そうと俯いていると、指先に何か触れた。 「そんなに深く切ってませんね。これで大丈夫でしょう」 顔を上げてみると、差し出した右手の人差し指……そこには絆創膏が貼られていた。 「……? どうしました?」 自分の人差し指をボーッと眺めている女性に時雨は声をかける。 「えっ、あっ……ありがとうございました」 女性はその声に我にかえると、急に立ち上がり慌ててお辞儀をする。 「本当にありがとうございました! し、失礼します!!」 何故か逃げるようにその場を去った女性。 時雨はそんな女性を不思議に思いながら、この料亭にあんな女性従業員がいたかどうかを思い出すのだった。
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