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「ちょっと待っててな。」
進路の事で担任に相談があると言う親友を待つ為に夏貴は学校の廊下の隅に背中を預けた。
放課後とは言え夏も盛りの陽射しは眩しくガラスの窓が並んだ壁に寄り掛かった夏貴は目を細めた。
その顔は夏が嬉しくて堪らないと言った風だ。暑さに参っている大半の人間からは理解出来ないだろう。
進路指導室は職員室の隣にあり、その前の廊下は夏休み前と言う事もあり生徒の人通りも多い。
夏貴それを見ると言うわけでもなくただ何となく視線を走らせた。
撫で肩の肩から落ちそうになるスクールバックを直すと腕の幾つかのブレスレットとコヅい指輪が音を出した。
視線を落とせば耳に付いた5つのピアスがそれぞれ音を立てた。
ミルクティブラウンの髪は地毛だがアクセサリーだらけの夏貴は教師から非難を浴びる事も多かった。
しかし、直すつもりは皆無だった。悪いと思ってなかったら隠す意味がない。夏貴の性格だった。気さくでリーダーシップも協調性も真面目さもある夏貴を非難はしても嫌う教師はいなかった。
と
廊下から同じクラスの女子が3人歩いて来た。
確か美術部だ。此処は美術室から昇降口への通り道にあたる。部活が終わった帰り道だろう。
夏貴は目線を合わせて軽く手を上げた。
「夏貴じゃん。帰んないの?」
クラスで夏貴が話せない人はいない。全員が知り合いで仲間。夏貴の周りには必ず人が集まる。
「凛斗待ちー」
話しかけて来た子じゃない2人が笑った。
「本当仲良いよね。」
「あいついなきゃ俺駄目だもん。」
夏貴は真面目に言ったつもりだったのに3人はまた笑った。
「まだ凛君出て来ないの?」
「んーそろそろじゃね?」
夏貴はチラリと進路指導室を見た。
「ま、仲良く帰りなよ。」
「お前らも気をつけて帰れよ。」
一人はニッコリ笑って2人はペコリと頭を下げた。
「じゃあね。」
「明日ね。」
「バイバイ。」
夏貴は笑って手を振る3人に「お前らこそ仲良いじゃん。」と聞こえないように呟いて手を振り返した。
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