1人が本棚に入れています
本棚に追加
「……………」
夏貴は3人が去って行った先をしばらく見ていた。
下校や運動部達の遠い喧騒に夏貴は耳を澄まして目を閉じた。
その音達に含まれる生徒達の生活を思い描いてみた。
夏貴はゆっくりと目を開けて向きを変え窓を見た。
沈んで行く真夏の大きな太陽が自分を煽っている気がしていた。
ガラガラと扉が開く音がして親友が出て来た。
「遅ーい。」
「お待たせ。夏貴。」
夏貴が親友の凛斗に悪態は吐きつつ笑って歩み寄ると扉から伸びて来た手に耳のリングピアスを引っ張られた。
「!!!!痛い!!!痛い痛い!!!!!ちぎれる!!!!」
「じゃあ、外して来い馬鹿者!!!」
ピアスを引っ張る力を緩めないまま表れたのは大柄な教師だった。進路指導の担当だが生徒指導もしていて、気が強く、ガラも悪い。
「二階堂先生!!本当ちぎれるから離してあげて!!!」
「そう思うなら凛斗からも学校には外してくるように言ってくれ。」
凛斗が緩く先生に笑いかけた。
「俺が言って直るなら…もうして来てないですよ。」
凛斗が先生の腕を掴んで漸く手が離れた。
「いったー…。」
「……。」
凛斗は夏貴の耳に置かれた手そっと指で触れてそのまま背中に置いた。
凛斗は少し焦ったような困ったような曖昧な笑顔を見せた。
「先生ありがとうございました。さよなら。」
「あぁ、気をつけて帰れよ。」
「………先生…さよなら。」
「明日は外して来いよ。
さよなら。」
先生は笑って手を振った。
最初のコメントを投稿しよう!