プロローグ

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ここは島国フィエレク王国の歴代国王の住む王宮。 広大な敷地で緑の豊かな王宮には、国王一家の暮らすフィエレク宮殿や国会の行われる中央宮殿、また王宮職員の住む官舎などがある。 今日はその王宮の中を、大型トラックや小型トラック、バイクや自転車が何台も忙しく走り回っている。 先月、国王夫妻が飛行機事故で亡くなったために、国王の弟一家が新国王になるためにフィエレク宮殿に引っ越して来るからだ。 これまで弟一家も王宮内にある別の宮殿に暮らしていたから、引っ越しも簡単に済みそうだけれど、やはりその荷物たるや半端な量ではなく、職員総出で仕事に励んでいる。 ロメル大佐はこの引っ越し騒ぎを複雑な思いで眺めながら職務に奔走していた。 亡くなった国王は優れた人だった。 専制君主制という絶体的な権力を持ちながら、国民の声に耳を傾け、積極的に外国との交流を図ろうとしていた。 警護員、つまりSPとして直接国王一家の警護に当たっていたロメルは、国王一家とはかなり親しい関係にあって、子供のいなかった国王はロメルの息子を養子にくれないかと、しばしば冗談まじりに口にするほどだった。 ロメルはSPという立場だけでなく、ひとりの人間としてこの国王のためなら命も捨てられると思っていた。 それなのに自分が非番のときに、自分の手の届きようのない異国の海で逝ってしまった。 また事故に遭った国王の外遊の目的は、ブリテン王国との重要な条約の調印のためだった。 ブリテン王国は亡くなった王妃の故国で、国の象徴としての王族と実際に政治を行う国民とがうまく共存していた。 そんなブリテン王国との重要条約の締結は亡き国王の悲願だった。 ところが飛行機はブリテンに到着する途上の海に墜落したために条約は結ばれなかった。 それだけでなく、フィエレク王国は飛行機に同乗していたこれまで国を動かしていた要人を、一気に失った。 その要人の中にロメルの上司、ガイリンガー防衛警察庁長官がいた。
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