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「酔っ払いに絡まれたの?」
いつものバイト時間。葵は店内のPOPを書きながら話を聞いてくれる。
「お客さんに助けてもらったって……へぇ」
なぜか楽しそうな声だ。
「何?」
「……かっこよかった?」
にやにや~と笑っている葵。
「この間の客だよ。注意された」
「あぁ。あのエリートっぽい……確か、小野塚さん」
葵が何気なく言うから、驚いて聞いてしまう。
「何で名前知ってるの?。まさか……知り合いとか?」
「品出ししてる時、名札みたから」
葵は得意げだ。
ほんの一瞬しか見てなかったはずなのに抜け目ない。
「さすが……」
「まぁ、基本ですなぁ。結構いい会社に勤めてるんじゃないかな?。これは、私の予測だけどね」
「いい会社って……まさか尾行」
「あい、ぼけすぎ。私が見たのは時計だよ、時計」
葵は高価な時計に興味がある。
といってもコンビニ勤務では、到底手に入れることはできない。
カタログを見て、いつかは欲しいとずっと言っていた。
「あの若さで、あの時計。加えてあの雰囲気。外資系サラリーマンと見た。しかも、そこそこの地位にいそう」
葵は勝手に予測を始める。
「色々見てるなぁ」
「葵プロファイル」
自信たっぷりの葵に、少し呆れた声がカウンター越しに響く。
「何言ってんの、葵ちゃん」
少し茶色の髪に、おっとりとした瞳。草食動物を思わせる青年。身長は高いが、威圧感を一切感じさせない。
見るからにいい人~なオーラが漂っている。
「優司。仕事は?」
葵の目が輝く。
慌てて、優司の元へ近寄る。
「今日はもうオシマイ。久々に早上がりだよ」
「珍しいね。あ~、でも収入が減る」
「それを言うな~」
葵とその彼氏、優司は同棲中だ。
付き合いが長いからだろうか、二人の間には絆があるように見える。
楽しそうな二人。まさに、あいの理想の姿だ。
……タカヒロさんとあんな風になれたらなぁ。
なんとなく、会いたい気持ちが強くなる。
仕事が終わったら、メールしてみようかな。
『今日は無理』
返ってきたメールは、期待を裏切るものだった。
絵文字もない、件名にだけ、そう書いてある。
そっけない。
忙しいのかなと、ちらりと思った。
だけど、会いたいと思った気持ちは、なかなか諦められない。
『少しでいいから、顔見たら帰るから』
一言だけ添えて送信する。
すぐに、携帯が鳴る。
『ゆっくり会える方がいいでしょ?』
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