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タカヒロさんの返信は一言。
でも、その言葉に胸がきゅんとする。
そんな風に思ってくれているんだ。
だけど、余計にそう思えば一人で部屋に帰りたくなくて。
わがままだとわかっているけど、どうしても今日、ほんの5分でもいいから会いたいと思う。
他の日なんて、嫌だ、今日会いたい。
本心が強くそう言う。
あいは、仕事が終わるとタカヒロさんのマンションに来ていた……。
しっかり管理されているこのマンションは、住人の暗証番号がないと先に進めない。
一階のエントランスは、まるでホテルのロビーみたいだ。
ふかふかのソファにかける。
帰宅時間なのか、あいの前を何人もの住人が過ぎていく。
あいのことを目に留める人はいない。
だけど、そうやって二時間もいると、さすがに退屈になってきた。
ご飯も食べてないから、さっきからお腹が鳴っている。
時計を見上げると、午後9時になった所だった。
まだ、帰ってこないよね……
ため息を一つつく。
忙しいと言われたから、きっとまだ会社にいるんだろう。
ひょっとして……、帰って来ないとかないよね…?
ふとした考えに、説得力がありすぎて、携帯を開いてしまう。
宛先を探した所で、パタンと携帯を閉じた。
待ってるって決めたんだから、待ってみよう。
それに、あいが勝手に会いに来てるのだ。帰りを急かすなんて、あまりにも自己中だ。
「あい」
気持ちいいソファに座って退屈していて、空腹にも関わらず眠ってしまったらしい。
誰かの強い声が、あいの目を醒まさせた。
「なんでこんな所、いるの?」
スーツ姿のタカヒロさんが、真剣な目で あいを見ている。
「あ……、タカヒロさん」
あいがゆっくりと身を起こす。
「今日は会えないって言ったよね?」
「どうしても、会いたかったの。……ごめんなさい」
静かだけど、迫力のある声にあいは思わず謝る。
「……たまたま早く帰れたから、よかったけど」
そう言ってため息を一つ。
「ひょっとしたら、帰って来ないこともあったんだよ?」
子供に言い聞かせるような声。
「ごめん」
「とりあえず、部屋行こう」
チラチラと周りを気にするような態度を見せる。
見られるの……嫌なのかな?
「あいちゃん?」
「う、うん」
タカヒロさんの背中を追って、エレベーターに続いた。
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