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「いつから、あそこにいたの?」
エレベーターは二人だけ。
「二時間くらい」
「そんなに。メールくれたらよかったのに」
「それは無理だよ。私が勝手に待ってただけだしっ」
言い訳をすると同時に、眠っていた空腹が目を醒ました。
キュルルル
「……お腹空いてるんだ」
「いや、あの、これは」
焦って何かを言おうとしても、またお腹が鳴る。
「ぷ」
堪えきれないと言うように、タカヒロさんが表情を崩す。
「はははは。こんなはっきりお腹の音聞いたの初めてだよ」
面白そうに、肩を震わせて笑っている。
「あの、ちょっ、タカヒロさん?、笑いすぎじゃない?」
笑いを止めようとしても、ツボに入ってるタカヒロさんは止まらない。
涙目になって笑っている。
「部屋、何もないかもだから、何か取ろうか?」
笑いすぎて出た涙を拭きつつ、タカヒロさんがエレベーターを降りる。
「何がいい?」
「……何か作ろうか?」
タカヒロさんを見て、恐る恐る聞いてみる。
「作れるの?」
驚いたような顔。
「本格的なのは無理だけど、ちょっとした物なら……」
料理はできなさそう……といつも言われる。だから、必死で頑張った。
その時の彼氏が、ギャップに弱いと言ってたから。
本当に男はこのテのギャップに弱い。
「あ、でも……ウチ本当に何もないかも」
タカヒロさんが思い出したように言う。
「お腹すいたあいちゃんを働かせるのも悪いから、今日はデリバリーで我慢してよ」
部屋の前、優しい声で言われる。
「手料理はまた今度楽しみにしてるよ」
遠回しに、壁を少し感じた気がしたけど タカヒロさんの優しさなのだと、考えるのを止めた……。
……来ない。
ため息をついて、携帯を置く。
「幸せ逃げるよ」
パソコンを操作していた、葵がぽそり。
「うぇ~、逃げられたくない~」
「だって、今日すごくため息多いし。携帯ばっかり気にしてる」
「来ないの」
ぽつりと呟くと、葵が早とちりした。
「二ヶ月くらい!?
それ……やばいね」
「違う」
即座に否定する。そっちの来ないではない。
それも困るけど、タカヒロさんの子供なら……。ではなくて!
「メールと、あと例のヒト」
ダブルパンチだ。
仕事が立て込んでるとは聞いたけど、あの押しかけた日から、タカヒロさんから連絡途絶えがちだ。
さらに、もう一つ。
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