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特別な事を、求めているわけではない。
求めているのは『私だけを、好きでいてくれること』
なのに……。
なんでいつも、同じ状況になるのか……。
過去を思い出した脳が、これはいつものパターンだと囁く。
「お前……、重いんだよな」
ため息と、困ったような視線。
総てを否定するような、冷たい言葉。
なのに、被害者の顔をしているのは、あいつの方。
……重いって、何?
ただ、一生懸命なだけなのに……。
「俺、そんな事、頼んでないし……」
言い訳めいたあいつの言葉。
次にくる言葉は……大体同じだ。
「……俺達、合わないんじゃね?」
でも、本当は知ってる。最近、あいつの携帯がよく鳴っていること。
優しい、甘い声でそれに出てること。
「もう、いいよ」
あっさりと言葉が出た。
気持ちはすっかり冷めていたのかもしれない。
泣きも、怒りも湧いてこない。
ただ、この人じゃないこと……それはわかった。
諦めと言えば、近いかもしれない。
「わかった。じゃあ、別れよ?」
終わりは、あっけないものだった……。
午前中のコンビニは、意外にも暇だ。
オフィス街に近いせいか、仕事が始まってしまえば、極端に客足は減る。
モップを持って、掃除のふりをしているが、そんな気はさらさらない。
「あい~、そういえば、この間の靴、予約取れたみたいだよ?」
店内の小さな休憩室から、声がかかる。
同僚の葵が、携帯を見せて呼んでいる。
「あ~、ごめん。それもう、要らない」
「ん……?。限定品だよ?」
「別れた」
「早っ」
驚いたように、葵が叫ぶ。
「なんで?、あんなにラブラブだったのに?」
葵は、付き合い始めの頃を知っている。
あいつは、コンビニにも頻繁に来ていたからだ。
「でしょ?。そう思うでしよ?。付き合うまでは、あんなにしつこく迫っておきながら」
「釣った魚に、餌あげないタイプ?」
「そんで、他に釣りにいくタイプ」
「最悪だ」
葵は、同調してくれる。
長くて、明るめの細い髪が、ふわりと揺れる。
葵は、美人だ。
頭もいいし、よく気も利く。
性格も前向きだし、サバサバしているし、意外に姐御肌だ。
憧れてしまう。
何より一番、羨ましいのは、高校の時から付き合っている彼氏と、ずっと続いていることだ。
二人でいる所を見ても、自然で、葵もいつもよりリラックスしているように見える。
安定しているのだ。
「じゃあ、彼氏にキャンセルさせとくね」
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