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グロスを塗り直して、深呼吸する。
鏡を見て、チェックをする。
至近距離でも平気に塗ったファンデ。
もう見られても……多分平気。
タカヒロさんの隣はもう空いてないかもだけど……諦められない。
よしっ……。
気合いを入れ直し、両手でガッツポーズして、化粧室から出る。
「あ、あいちゃん」
ライトを少し絞った化粧室への通り道、壁に背をついて、タカヒロさんがいた。
「え……?タカヒロさん?」
「具合、悪いの?。飲ませすぎちゃったかな?」
びっくりした。
まさか、心配して来てくれているなんて想像もつかない。
「あ、いえ…具合は悪くないです」
とりあえずそこは否定しておく。
「そう?」
顔を覗きこまれる。
これは……、ひょっとして……。
「でも、皆の前でトイレ~とか言っちゃって、恥ずかしいかも……、戻ったら、からかわれそうで」
軽く笑う。
恥ずかしいから、笑ってごまかす。
「じゃあさ」
タカヒロさんは優しく笑う。
「二人で抜け出さない?」
「え?」
思いもよらない……いや期待していた言葉。
そっとタカヒロさんが優しく肩を抱く。
「あいちゃんと二人で話したいって、さっきから思ってたんだ。二人で飲みに行かない?」
甘い声で囁かれる。
久々に心臓がドキドキした。
意識しまくって顔も赤くなる。
「あいちゃん?」
優しく呼ばれる。
「行っ……ても、いいよ」
わざとそっけなく返事をする。
「了解」
くすくすと楽しそうにタカヒロさんは言った………。
真っ暗な部屋の窓には、イルミネーションのようなネオンがキラキラ瞬いていた。
「綺麗……」
カクテルでほろ酔いのせいか、足元も気持ちもふわふわする。
「ここに住んでるってスゴイね」
「仕事用なんだ。会社から近いから」
何事もないかのようにタカヒロさんが言う。
「すっご、家二つもあるんだ?」
「自宅が遠いんだよ。通勤に2時間かかるの」
くすっと笑って、 そっとタカヒロさんが背後から腕を回してきた。
「いいなぁ、住んでみたい」
それはただの願望だった。でもここが高級マンションなことはわかったし、今の収入では手も届かない。
「そう?……じゃあ一緒に住む?」
あいの髪をかきあげて、首筋に口づけながらタカヒロさんが呟く。
「え……?」
「ここに、一緒に」
まるで熱に浮されたみたいなタカヒロさんの視線。
両手で肩を掴まれて、振り向かされる。
タカヒロさんの表情が、ネオンに浮かぶ。
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