11人が本棚に入れています
本棚に追加
最悪なお客サマ
「いらっしゃいませ~」
いつもの仕事場、やることに変わりはないのに、今日は気力が溢れてる。
無駄に、笑顔だって振り撒ける。
「今日は、張り切ってんね」
お客が途切れたのを見計らって、葵が話かけてくる。
「うん」
「いいこと、あったの?」
にやりと葵が笑う。
「へへへ~。新しい出会い、頂きました」
「へえ? どんな人?」
そこで、とりあえずうろ覚えのタカヒロさんの肩書を言ってみる。
「商社マン。葵、わかる?」
「へぇ」
少し驚いたように、葵が頷く。
「将来有望じゃん。で、顔は?」
言われてタカヒロさんの優しい瞳を思い出す。
「えへへへ~」
思わずにやけてしまう。
「ちょっ…、それ恋する乙女の顔じゃないから」
葵から突っ込みが入る。
「その人、あいに優しい?」
「え?」
葵は、真面目な顔だった。
思えば恋愛事の相談は、いつも葵にしていたから、どんな人と付き合ってきたのかを彼女はよく知っている。
「優しいよ」
「いつ出会ったの?」
「先週」
へへっと今でも顔が緩む。
あの合コンから、毎日メールしてる。
電話もかかってくるし、会社帰りに遊びに行くこともある。
「彼女なの?」
葵が、聞いてくる。
それは、最近のあいの疑問だった。
「う~……ん」
それは、はっきりしない。
確かに、彼女と言われてもいいような、関係だと思う。
今までに、付き合ってきた人達は、付き合おうと言ってくれた。
だけど、タカヒロさんは……。
「好きって言ってくれるから、多分」
今までは、付き合いだすと、好きと言う言葉は減った。その代わり『俺の』とか所有の言葉が増えた。
「好き……だけかぁ」
葵がちょっと心配そうな顔をする。
「あ、いやでもまだ始まったばっかりだし、……これからだと思うしっ」
なぜだか、焦って庇ってしまう。
だってまだ一週間だから、これから、タカヒロさんがはっきり意思表示してくれるかもしれない。
それに……。
今日も、夕方から会うし……。
「おい」
これからを想像して思わずにやけた時、冷たい声が降ってきた。
「おい」
気がつけば、レジカウンターにスーツの男の人が立っていた。
「いつまで待たせる気なんだ?」
やばい。
いつの間にか、お客さんがいたらしい。
気がつかずに、ぼうっとしていたらしい。
葵は、商品を補充しに、バックルームに消えていた。
「すみませんっ」
慌てて、バーコード
最初のコメントを投稿しよう!