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「燈奈、連れて行ってくれないか?...義父上と義母上の所に...」
「...っ遒様?」
遒は松本と視線を合わせ頷くと燈奈に向き合い、優しく笑い彼女の涙を拭った。
「真実を知ったからには、挨拶をしなければならないだろ?燈奈の生みの親に。」
「っ!!はいっ....ありがとうございます。....遒様。」
「そんなに泣くな。....ったく....泣き虫だな....」
苦笑いを漏らしながら燈奈の頭を撫でると彼女から泣き笑いが漏れた。
こんなに一日に何度も彼女を泣き顔を見るのは初めてだ。
遒は可笑しそうに笑うと松本に向き直った。
「今日、燈奈にここに連れてきてもらい、正解でした。....そして松本先生に会えて良かったです。これからも“義母上”と妻をよろしくお願い致します。」
「あぁ。いつでも来るといい。」
「はい。では、失礼します。」
遒と燈奈が頭を下げると松本は子ども達と家の中に入って行った。それを見届けると視線が重なり、足は自然に桜の樹に向かっていた。
「燈奈....」
「遒様....」
燈奈に頷いてみせ、彼女の肩を抱き締めると桜の樹を見上げた。
「深雪殿...いえ、義母上、ご挨拶が遅れました。...貴女が大切に育ててこられた燈奈を今度は私が燈奈を大切に致します」
どうか見守ってください...
「遒様...」
驚き、見つめる燈奈に優しく見つめ返すと額に口付けを落とした。それに燈奈は朱くなった。
「さて、戻ろうか、義父上にも挨拶をしたい。...近いのだろ?」
「...っはい!!」
「義母上、また参ります。」
遒が頭を下げると燈奈もそれに倣った。
「...行こうか」
「はい。」
遒を追うように燈奈も側により、手を絡めた
サァァー…‥
サァァー…‥
幸せにね...燈奈
「...っ!!」
はっとして燈奈が振り返ると、二人の横を優しい春風が通り過ぎ、桜を舞い上げた。
舞う花びらの中に人影が見えた気がした。
「...燈奈、どうした?」
「...いえ、参りましょう。」
遒が不思議そうに自分を見つめるのに苦笑を漏らし、静かに首を振った。
(...お母様、ありがとう。)
笑みを向けると燈奈は先程よりもしっかり遒の手を握りしめて、元来た道に戻り始めた。
遠い昔のある春の話...
終
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