左胸に抱く子猫

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  あまりにも嫌な偶然だった。 五年前の飛行機事故。 飛行機事故なんてそう頻繁に起きるものじゃない。 もしかしなくても、俺の父親とミケの母親は同じ事故で死んでいた。 「……凄いね」 「何が?」 いつまでも立ち止まったまま地面を睨むことしかできなくなった俺とは違う。 ミケは立ち上がって空を見て、確かに前に進んでいたんだ。 彼女はおかしそうに笑った。 「凄くなんかないよ。だってあたし、ほら、サボりなんだってば。あたしもコーコーセー。あははっ」 大学生か何かかと思っていたが違ったらしい。 それからミケはふっと顔から笑顔を消して、少しだけ寂しそうな顔をする。 「ミヤタ君の方が凄いよ。頑張って勉強してたじゃん。今日はすぐあたしが見つけちゃったから、お邪魔だったね」 違う。 何かしらの高尚な理由で勉強してたわけじゃなくて、ただ惰性のままに毎日を過ごしていただけ。 母親を騙すため、自分を騙すために。 俺は、立ち上がりかけた彼女の腕を掴んでいた。 「……ミヤタ君」 「もっと、話がしたい。色々聞かせてよ。ミケのこと」 ミケは驚いたように目を見開いて、また静かに俺の隣に座ってくれた。  
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