左胸に抱く子猫

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  そう言った彼女は、今までに見せた無垢な笑みとは掛け離れた妖艶さをちらつかせていた。 いたずらっぽい表情の中に、どこかじわりと滲むような。 ミケが発した『好き』という平易な単語によるものだろうか。 しかしそれを不快だとは感じなかった。 「名前? それがヒント?」 彼女の顔を見上げ続けていると日差しが眩しくて、仕方なくミケの首の根元、白く浮き出た鎖骨と視線を滑らせる。 「別に知らなくていい」 目線を徐々に降ろしながら冷たく言い放とうと、それを意に介さないやつだと分かっていた。 ミケは今度こそ子供のように、屈託なくくすりと笑う。 「じゃああたしはミケでいいよ」 「そのうち教えてくれたらいいよ。俺が空を好きになってからで」 そう言うと、彼女は嬉しそうにわあっ、と声をあげた。 「じゃあ、それまであたしと会ってくれるんだ?」 いつのまにか、俺はミケと話すことを心地良いと感じるようになっている。 ミケのほうは、何故俺に興味を抱いたのか分からない。 しかし、俺はミケに興味があった。 それだけは確かな事実だった。 他人にここまで興味を抱いたのは、初めてだ。  
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