追憶

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と、佐世保基地のゲートの前に見たことのある人が腕を組み仁王立ちしているのだ。 「あれって加藤隊長?」 言音は仁王立ちの人を指差す。 「ゲッ!」 竜乗は急ブレーキ。すると仁王立ちはこちらに走って来た。言音の言うとおり、加藤だった。そして車の前に来ると 「木村ぁぁ!俺にその車乗らせろー!!」 とボンネットに手を乗せて叫んだ。彼は無類の車好きと言う一面がある。故に竜乗の愛車シュヴァルⅩには大変興味を示していた。彼が叫んだのを聞いたのか、 「加藤!貴様は一体何をしている!?」 声を張り上げて、傍の建物から一人の中年男性が出てきた。羽鳥だ。 「今度は艦長!?」 言音は何が何だかごっちゃになった。羽鳥は出て来るやいなや直ぐに、 「この戯け者が!これから二人はデートだぞ!デートの邪魔をする者は、この羽鳥が許さん!!」 と愛用の切っ先両刃の軍刀(小烏丸型軍刀)を鞘から抜き、加藤へと迫った。 「あっ…失礼しましたー!」 加藤は慌てて走り去った。羽鳥はシュヴァルⅩのサイドウィンドウを軽くノックした。竜乗はウィンドウを開けると 「さ、邪魔者は去った。珈琲と共に楽しんで行ってらっしゃい」 とニッコリ微笑んで言うと、彼は直ぐに軍刀片手に加藤を追い始めた。 「待てー加藤!」 この短時間に色々なことが起きてしまい何が何だかわからなくなった二人だったが、何とか基地から出て行ることとなる。 「あの茶番は一体?お陰で車があわやクラッチ踏み忘れてエンストする寸前だったんだぞ…」 竜乗は頭を掻いて呆れた。
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