プロローグ

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世界中を巡り、世界の花々をこの目に幾度無く焼きつけて来た。 どんな花よりも私は、気高くて、強く根付く花を見つけた。 それはどんな状況にも関わらず、りんとすましている紫。 目の奥でその姿は消える事がない。 だってこんなにも幸せそうで平和なのだから――――― しかし、手を伸ばすとその花は萎れ、とても繊細なものであった。 美しい色は汚れて枯れてしまう。 人が触れてしまえば、綺麗な花弁も土へと落ちる。 人の心を映すように。この花は鏡のように綺麗なのだ。 しかし、この花は人の手によって作られた物。 製造者はきっと清らかで優しさに溢れた人物であったに違いない。 そう、私は知っている。 この花はたっぷりの愛情と、幸せと温もりの中で育ち、またその花も製造者の幸せを願って生まれて来たのだ。 またそれは、世界にも届かせる為に――――― しかし、愛情よりも幸せよりも、己の欲望の為に起用しようと企む者がいる事は、事実である。 綺麗な色は黒に染まり、欲望のままに姿を変えられてしまうだろう。 棘には毒を持ち、人々に絡みつく。離す事は簡単ではない。 毒は甘く、もがけばもがく程に茎とともに締め付けてくるのだ。その毒蛇は少女を好む。
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