10人が本棚に入れています
本棚に追加
少女は毒にやられても、己が犯している罪には気づかない。気づいた時にはもう、毒の虜。
誰も実体は知らずに、事態は広がってゆくのだ―――――
****
「最近パッとしねぇなー。なぁロイ」
雑風景な一室。ここは怪盗団のアジトである。
逆立てた赤褐色の髪の頭を掻きながら男は欠伸をした。
「パッとしないのは君自身じゃないのか、ジェーク」
その横でロイはメガネの汚れをハンカチで拭きながら、ジェークと呼んだ男を横目でチラリと見た。
ロイはロイウェルトの愛称で、仲間からはそういつも呼ばれている。
ジェークは良く言うじゃねぇのと、立ち上がり、ロイに喧嘩をふっかけるような素振りを見せる。
しかしこれはただ暇を持て余し、相手にして欲しいといった意思表示であった。
その二人の横を、一人綺麗な長い金髪を揺らし、めかした女性が通り過ぎる。
「もうバカなやり取りは止めて、二人とも外に出たらどうなの?」
じゃあねと、彼女は忙しそうに部屋を出て行った。その背中を二人は静かに見送り、同時にため息を吐いた。
「サラはまたエステかよ」
ちぇっと舌を鳴らしながらジェークは椅子の背に凭れた。
最初のコメントを投稿しよう!