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「今井くん、品だしお願いね」
先輩はそう言ってウォークインに入っていった。
俺は深夜のコンビニでバイトをしている。
コンビニは楽だ。
いくつかバイトしたが、かなり楽な方だと思う。
まぁめんどくさい客も来るが、何せ接客している時間が短い。
特に愛想よくしなくてもいいし、客もレジの早い方が好きだ。
そして俺自身、特に楽しんでやってる訳ではなかった。
バイトなんてそんなもんだ。
でも好きな時に休めるから、簡単に友だちと遊びにも行ける。
だから辞める気はなかった。
――彼女に出逢ったのは、そんな時。
深夜の0時前。
彼女はコンビニの自動ドアにヒールを挟み、スポッと靴が抜けた。
たまたまそばにいた俺は彼女の白いヒールを抜いて、手渡した。
すると彼女は照れながらも、笑って言った。
「ありがとう」
――たったそれだけだった。
たったそれだけなのに、俺の胸は高鳴った。
彼女はヒールを履いて、店を出ていった。
歩いていく彼女の背中を、俺はただしばらく眺めていた。
――俺は名前も知らない彼女のことをひそかに「シンデレラ」と呼ぶようになった。
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