プロローグとは単なる前置きでしかない

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「この殺人事件の犯人、それは被害者、北條 章人の妻である麗奈(レナ)さん、貴方ですね。貴方は睡眠薬で眠らせたを章人さんを撲殺したんです」  青年が言った。    この場には、この殺人事件を担当している警部、新崎 恭哉の左隣で涙で眼球を赤く染めている、北條 麗奈だ。  他に息子の拓人に娘の水織(ミシキ)、章人の兄である大和の三人が居合わせている。 「私が夫を殺した?お言葉ですけど、私には夫を殺す理由なんて、何処にもありませんよ」  しかし、麗奈は自分の夫を殺す動機など、無いと主張する。  眼球を赤く染めたまま、しかしその表情は僅かにだが笑っていた。  その笑みは、殺す動機が分かる訳がないと高を括っているからなのか……  犯人でもない自分を犯人と呼ぶ青年を、ただ馬鹿にしてるだけなのか…… 「いえ、動機ならありますよ。随分昔の話になりますけどね。…………説明してもよろしいですか?」  青年の話す態度に対し、麗奈は背筋が冷たく感じた。  青年の表情は余裕そのもの。しかし麗奈にとっては、彼の何もかも見透かしたような瞳こそが、酷く気味が悪かった。
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