秋の嵐

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「まぁ忘れたって言えばウソになりますけどね…でも今カオリが幸せなら、旦那さんに大事にしてもらえてるなら…それでいいじゃないですか。」 「カツオ君……」 堅い表情のカツオはそう言って口元についた豆おかきの食べかすを指で払ったのと同時に浮絵は胸に何とも言えないざわつきを覚えた。 「ホントにこんなでいいんですかね僕の人生…何もかも中途半端でいい加減で身になった事なんて一つもない。」 カツオは頭を掻いて窓から見える夜の街を目を細めながら眺めた…その姿に浮絵は今は亡き自身の父親の姿を重ね合わせていた… 「立派だよ、今のカツオ君は…きっとこれからも色んな人を幸せにしてあげられるよ、私を誰だと思ってるの?浮絵よ?伊佐坂浮絵!君を小さい頃からずっと見て来てるんだよ私!だから間違いないよ!自信持ってよ!」 「ハハそうですか…そんな事言って励ましてくれるの浮絵さんくらいです。マジで嬉しいです。」 少し複雑な顔つきでカツオはお世辞でも嬉しい、ありがとうと頭を下げた。 待ってよカツオ君…お世辞なんかじゃない、紛れもない曇りもない私の本心だよ?…だってこの世の中で私が見込んだたった唯一の素敵すぎる男なんだもん…これまでにも幾度となく感情に溢れ出し何度口につきそうになったかわからないその言葉を浮絵はやっぱり今回もゴクリとまた胸中に飲み込んでしまった。
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