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(恐れていた事が…カツオ君にだけには勘違いされなくはなかった…ハァ~)
額に手を当てエレベーターの壁にもたれかかって浮絵は胃の底から深いため息をついた。何という事だろう、やはりあの時カツオは自分と鷹野の関係に少なからず興味を抱いていたのだ…それもよりによって2人は恋愛関係にあると誤解していた。
(引き返して弁解しても信じてもらえる処か逆に余計に怪しまれかねない…ンモッ!じゃぁどうすればいいのよッ!)
浮絵はこれといった得策も言い訳も思い付かずただ長い髪の毛をクシャクシャとかきむしりながら苛立つ足取りでエレベーターを降りてビルの玄関に向かった。
「!…痛ッいたッ!」
「キャッ!」
浮絵はビルの玄関で突然誰かと肩をぶつけ思わず後ずさりした。
「す、すみません、ゴメンなさい!」
「い、いぇ私のほうこそよそ見しながら歩いていたものですから…」
浮絵が顔を上げるとそこには見慣れない若い女性が服についた埃を払っていた。
「あ…眼鏡!」
浮絵は衝突の際にその女性が落としたであろう黒縁の眼鏡を拾い上げて申し訳なさそうに手渡した。
「大丈夫…ですか?」
「あ、はい心配には及びません、」
女性は眼鏡をかけると浮絵の顔を少し見つめすぐに手元のメモ書きに目を移した。
「あの…つかぬ事を伺いますがこの辺りに【八王子フォレスト推進事業部】という会社はありますでしょうか?」
「八王子フォ…アァ!」
浮絵はその聞き慣れた会社名にすぐに反応した。
「それなら今私が出てきたこのビルです。」
女性はメモ書きとビルを交互に眺めながらここでしたか~と独り言を言った。
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