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浮絵の今の職場は主に江東区の外れにある小さな歴史博物館で事務職兼学芸員という職務で過ごす。
遺跡調査等の出張業務がない時の殆どが都内各地から社会見学に訪れる小学生達の館内の歴史物の解説とガイドというのが主任学芸員の浮絵の業務となる。
「おはようございま~…す…といっても私が一番か!」
毎日誰よりも早く事務所の鍵を開くのが浮絵の役目でそれがかれこれもう2年近くも続いている。たまには交代してほしいと泣きを入れたくもなるが弱味を見せられない悲しい性格が今も浮絵の精神基盤となっていた。
「今日は…っと…ヤダこの資料まだ出来てないじゃない!こないだあれだけ頼んでおいたのにッ!」
浮絵の机の隅にいつまでも鎮座している奈良の遺跡調査依頼の資料を見て浮絵はまたやる瀬ないため息をついた。
「おはようございま~す♪アレ主任今日会議じゃ…」
欠伸をしながら部下の財前典子が呑気そうに入って来た。
「おはようございますじゃないでしょ!この資料今週中にまとめといてって頼んだじゃない!」
「資料って…アレ?ヤダ嘘…これ…」
「頼まれた事はきちんと…」
財前典子の視線は資料と浮絵の顔を何回も往復させながら戸惑う表情に変わった。
「これ…これ確か私…鷹野君に頼んでおいたんですけど…」
「!…鷹野…君にぃ?」
浮絵は腕組みをして視線を泳がせた。
「はい、やっときま~す♪って言うからちゃんと手渡しもしましたし…」
財前典子は自分のせいじゃない、私はきちんと鷹野孝に引き継いだと言わんばかりの必死の形相で浮絵に訴えかけているようだった。
「ハァ~…間違いないのね?」
「はい…確かに彼に…」
浮絵は腕組みをしたまま自分の机にドンと荒々しく腰掛けた。
(ッたく…次から次へと…)
浮絵の我慢は限界に達しつつあった…
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