鷹野孝という男

4/34
前へ
/274ページ
次へ
(ハァ~…悩みの種は尽きるまじ…) 財前典子が入れてくれたコーヒーを一口含むと浮絵は頭を抱えた。次々と事務所に社員が出勤してきてタイムカードの側に小さい人だかりが出来ていた。 「…来ませんねぇ…もう始業時間ですよ。また遅刻ぅ?」 鉛筆を鼻に押し当てながら隣にいた財前典子が浮絵の顔色を伺っていた。 「主任…怒ってますぅ?」 「………」 「すみません、私もやらなきゃならない仕事が溜まっていて…それで少し不安だったんですが鷹野君にお願いしちゃったんですよ。ホントにすみませ…」 「もういい…」 「でも……」 「もういいから!私が今日仕上げるからッ!」 恐縮する財前典子の言葉を遮るように浮絵はまたコーヒーに口をつけた。 「…最近少し生意気になってきて仕事もいい加減だし…ちょうどいい機会、私がちゃんと叱るわ!仕事を任されるって事がどんだけ大切かって事きちんと言い聞かせる!」 「はぁ……」 財前典子は不機嫌な浮絵を横目でチラチラ見ながら肩をすぼめた。 (ッたく何考えてんのよあの怠け虫!今日こそちゃんと…ちゃんと…ハァ~…) 澄み切った朝の爽やかな春の空気とは裏腹に浮絵の心は深くどんよりと曇っていた。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

194人が本棚に入れています
本棚に追加