鷹野孝という男

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「実は主任の帰りを期待しないで待ってたんだぁ~。まぁただ待つのも退屈だし仕事してるフリでもしてよっかな~なんて♪」 鷹野孝は今度はコピー用紙で鼻唄を唄いながら紙ヒコーキを作り出した。 (なッ、何考えてんのこの唐変木ッ!信じらんない!) 浮絵は子供のような鷹野孝の振る舞いにもう叱る言葉も思い浮かばなかった…こりゃ一刻も早く林館長に決断してもらわないと身が持たない。 「あッ、主任ッ、待ってよ!話があるんだよッ!」 荷物をまとめて帰ろうとする浮絵を鷹野孝は慌てて制止した。 「ちょっとそこどいてよッ、私には話す事は何もないから!」 何が楽しくてこの唐変木と話をしなきゃならないのか、浮絵は鬼のような顔でどきなさい!と鷹野孝に忠告した。 「ちょっとだけだからさッ、すぐ終わる!」 「…今さらだけど真面目に仕事頑張りますからって話なら百歩譲って2分だけ聞いてあげない訳じゃないけどッ、もしそれ以外のくだらない話ならもうウンザリ!さぁどいて!」 「仕事の話じゃないんだなこれが。」 鷹野孝は完全に事務所の玄関を塞いだ。浮絵はやる瀬ない表情で首をクルリと回しため息をつき鷹野孝に人差し指を突き付けた。 「あのね鷹野君…私は君に付き合ってる程暇じゃないの!帰ってやる事山程ある訳ッ!いい?分かったらそこどいてッ、さあ今すぐッ!」 浮絵は柄にもなく声を張り上げ鷹野孝に怒鳴りつけた。 「そんな所やっぱ可愛いんだよなぁ!」 「は、ハァ~?可愛いぃ?ちょっと貴方フザけてるの?」 浮絵は鷹野孝の意味不明な言葉に呆気に取られた。 「この際だからはっきり言うよ、主任ッ…いや伊佐坂浮絵さんッ、俺と付き合ってよ!」 「………は…ハァ?」 何を言われているのか浮絵には理解出来なかった。付き合う?ハァ? 「好き…っちゅうかさ…まぁ好きなんだ…主任の事。」 (…………) 浮絵は頭が混乱し直立したまま暫くその場から動けずにいた。
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