序章

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「そうそうおめでとう!カツオ君のいるホテル大盛況だって風の噂で聞いたよ。」 「ハハハ…いやそんな大袈裟な…けどまぁ小さなホテルですが何とか支配人ナァ~んてのを任されちゃって…タハ」 凄い凄いと浮絵はカツオを持ち上げ賛辞を送り褒めちぎった。 確かに凄いのだ…言葉も習慣も違う欧州とも違うアジアとも異なる異国の地トルコで彼は立派にたった一度きりのチャンスを掴みその天命をまっとうする事に邁進し見事成功を収めたのだ、浮絵は改めて磯野カツオという人間の内に秘めたるバイタリティを感じずにはいられなかった。 「まぁ全ては穴子さ…いや、穴子社長のお陰なんです。3年前職安通いで定職にも就けずプラプラ人生を歩んでいたこんな出鱈目な僕を拾ってくれたのは誰でもない穴子社長なんですから…」 「だよね…社長さんには感謝しないとね。」 浮絵は一回り成長したカツオの横顔に言葉を投げた。 「だけどその期待に見事応える事が出来たカツオ君も偉い!業務の大変さもさることながら言葉の壁や食習慣の違いとかたくさんたくさんそりゃもう数えあげたらキリがないくらい辛い事もあったと思うけど忍耐強くよく我慢した!」 「すぐ根を上げて帰って来るって思ってました?」 カツオはサンドイッチを頬張りながら浮絵を見た。 「まぁ最初はね…ワカメちゃんと二人して駄目だコリャって泣いて帰って来るんじゃないかって!」 酷いですよ浮絵さんとカツオは冗談よと笑う浮絵を見て頭を掻いた。昔から困った時は自分の頭を掻く癖は治っていない…磯野カツオとの再会により浮絵は久しぶりに心の底から笑えたような気がした。
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