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「で、浮絵さんの方はどうだったんですこの3年間?」
カツオは指についたマスタードを舐めながら浮絵に顔を向けた。
「え?私ぃ?わ、私は相変わらずよ…まあ勤務先の博物館で学芸主任に抜擢されたくらいかな。」
「主任…凄いじゃないですかッ!出世したんだ。」
浮絵は少し照れ臭そうに持っていたコーヒーの飲み口を指で撫でた。
「まぁ主任って言ってもしがない中間管理職!上から叱られ下から突き上げられ…そのくせ仕事のミスは全て主任の評価に掛かってくるしもう何だかなぁ~って感じ。」
カツオは浮絵独特の言い回しに少しほくそ笑んだ。
「浮絵さんも色々大変なんだ。」
カツオは松葉杖を取るとヨッコラセと腰を上げた。
「変わらないな…」
「えっ?」
カツオはスーツケースを無作法に脚で引き寄せると呟いた。
「浮絵さんやっぱり3年前と一つも変わってない…安心しました。」
「何よそれ…私全然進歩してないって事?」
カツオと浮絵は互いに笑いころげた。隣にいた外国人観光客が不思議そうな顔をして二人を見ていた。
「ハァ~浮絵さんと久しぶりに話したら僕もやっと日本に帰って来た気がしましたよ。」
「だね、やっぱりカツオ君はカツオ君だったよ。私も安心した。」
カツオが3年前と何等変わらない事が浮絵にはとても嬉しく思えた。
「このまま実家に向かうんでしょ?」
「あ、いや…先に父さんの入所している老人ホームに向かおうかなって思ってます。」
「そっかぁ…じゃぁ老人ホームまで荷物持ちさせてもらうわ!」
浮絵はカツオのスーツケースを取り上げるように持つとタクシーを拾う為にターミナル端のタクシー乗り場に向かい歩き出した。
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