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次の日の史跡調査も滞りなく進んだ…
「なぁ鷹野君、こっちの縦穴まで来てくれんかね!」
「あ、はい…」
「兄ちゃん、これここいらの出土品の破片なんやがな、いつ頃のもんやろか解るか?」
「これはそうっスね…多分天平文化の後期の薪を割る木製の木づちですね…」
調査場のあちこちから調査員達の声が上がり深い知識を持つ鷹野孝は今日も引っ張りだこだった。
「いいよ、気使わないで…行ってあげて!」
鷹野孝はチラチラと浮絵の顔色を窺いながらよそよそしく調査員の輪の中に入って行った…そんな鷹野孝の様子に浮絵は昨日ほど悪い気はしなかった…なぜなら調査員達は鷹野孝を完全に信頼して接してくれているし自分の会社のスタッフを信用してくれているのだから上司としてこれほど嬉しい事はない、浮絵はあらためて鷹野孝の見えない底力に驚きを隠せなかった。
「……お疲れ…」
「あ、ども…」
昼ご飯の時間になり調査員達は皆休憩に入った。あちこち走り回って汗だくの鷹野孝に浮絵はペットボトルの緑茶を手渡した。
「……許さないわよ!」
「へ?…」
浮絵は調査員から手渡された幕ノ内弁当を膝に置き鷹野孝を睨み付けた。
「絶対許さないから…今まで出来ないフリして不真面目に仕事してきたペナルティーは帰ってからきちんと受けてもらうから!」
「も~主任もシツコイなぁ~ッ、ハイハイ主任の罰なら何だって受けますヨォ~!」
鷹野孝は緑茶をゴクゴクと飲み干した。
「けど…助かった…」
「へ?……」
浮絵は幕ノ内弁当の蓋を開けながら一つ息を吐いた。
「あなたがいなかったら多分調査員達と協調出来なかった…ありがとう…」
「それって俺主任の役に立ったって事?」
鷹野孝はタオルで嬉しそうに汗を拭いた。
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