秋の嵐

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エコ推進事業部と銘打つだけあり空調のあまり効かない職場の廊下はまだむしむしと暑い空気が支配する…分厚いファイルと寝不足気味の顔を土産に浮絵は窓に頬杖をつきながらまだ咲きかけのコスモスを眺めていた。 「あ、伊佐坂君待たせたね、どうぞ~!」 浮絵が待つ廊下の反対側の部屋から林館長の事務的な声が響いた。 「失礼します…」 「いやぁご苦労さんご苦労さん!奈良の調査順調にいったようで何よりだ…」 林館長は左手で扇子を仰ぎながらいつになく機嫌が良さげだった… 「昨日の晩さっそく先方さんからお礼の電話があってね、とにかく凄く助かったと大変喜んでいただけたようだよ。」 「そ、そう…ですか…ハハ」 浮絵は少し首を傾げ無愛想に答えた。 「………」 「な、何か?」 浮絵の浮かない顔付きに気付いた林館長が今後は首を傾げた。 「林館長…知ってたんですね、人が悪い!」 浮絵は目線を合わせないまま林の机にお土産を置いた。 「はぁん?…だから何を?」 「鷹野!…くんの事ですよ!知らなかったとは言わせませんよッ!」 浮絵のただならぬ顔付きにピンときたのか林はアァ~と椅子に背中をもたげた。 「あんだけきちんと仕事が出来る人間だって事をどうして私に隠してたんですか!」 林館長は別に隠してた訳じゃないよとお気に入りの熊の置物を磨き始めた。 「何にも知らされずただ一人で熱くなってた私がバカみたいじゃないですか!」 浮絵は自分だけ何も知らなかった屈辱に苛まれ膨れ面で天井を見上げた。 「まぁまぁ落ち着きなさいよ!」 林館長はニヤニヤしながら熊の置物に息を吹きかけた。
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