秋の嵐

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「つまり林館長は彼の才能を最初から見抜いていた…一緒に奈良に出張に行かせて私がどう出るかを伺う、随分回りくどい事をなさるんですね!」 この際だ、自分を欺いた上司に思いのたけをぶちまけてやる、浮絵は真っ正面に林を見た。 「おいおい、私は決してそんなつもりは…」 「…もうお話する事はありません!失礼しました!」 浮絵は不機嫌に一礼をすると部屋から飛び出した。 (ンモッ何なのよッ!みんなでバカにしてッ!) カツカツとハイヒールを鳴らしながら浮絵は湿っぽい廊下を歩いて行った。なるほどそうか、つまりそういう事なんだ…林館長が福岡から彼を呼びつけたのは全て私の上司としての器を試す為の計算で私に対する当て付けなんだ!…浮絵は腹立たしさのあまり自分よがりのひねくれた解釈をしてみた。 (そうよ…彼の才能を見せ付けてあわやくば私の役職まで…) それは考え過ぎか、いやいや全て慎重に客観的に物事を考えないと最悪最後はこちらが食われてしまう…このままでは今まで色んな事を我慢し仕事に邁進し築き上げ頑張って来た事が全てパァ!やだ、それだけは絶対にヤダ!とにかく落ち着こうと待合室のウォータークーラーの水を飲んだ。 (こんな事で…あんな唐変木男一人に振り回されてたまるもんですか!) 口についた水を拭うと浮絵は一度シャツの襟を正した。
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