秋の嵐

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何とか定時に仕事を終えて大阪で有名な老舗和菓子屋の豆おかきの袋を提げた浮絵は渋谷にある雑居ビルの前に立っていた… (八王子フォレスト…ここだ!) 隣のパン屋から匂ってくる香ばしいパンの香りをよそに浮絵はゆっくりとそのビルに足を踏み入れた… 「ごめんくださぁ~い…」 小さなエレベーターを降りた3階の扉に【リゾートホテル八王子フォレスト推進事業部】と書かれている。 「………」 返事がない…浮絵は首だけもたげ誰もいないのかと辺りを見回した。 「いらっしゃァ~い!」 「キャッ!」 突然背後から肩を叩かれた浮絵はモグラ叩きゲームのモグラのように飛び上がった! 「僕ですよ浮絵さん♪」 「かッ、カツオ君!ンモッいつもいつもびっくりさせるんだから!」 磯野カツオは何故か手に殺虫剤を持ちながら浮絵を満面の笑顔で歓迎した… 「いやぁ実はさっきアブラムシが出没して格闘してた所なんですよ!」 「アブラムシ…」 「そ♪せっかく浮絵さんが来てくれるのに事務所にアブラムシが出たら大変だから!浮絵さん昔からダメでしょ?アブラムシ…」 カツオはそれでも取り逃がしちゃったんですぅと頭を抱えて残念がっていた。 「ふふふ…ぁははは!」 「は?何が可笑しいんです?」 突然の浮絵の笑い声にカツオが反応した。 「思い出したのよ!私が高校生だった頃家にアブラムシが出て…カツオ君が蝉を取る網抱えて来てくれて大騒ぎだった時の事!それ思い出したら笑いが止まらなくなって!」 「そんな事ありましたっけ?」 カツオは殺虫剤と浮絵の顔を交互に見比べながら軽く苦笑いをした。
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