秋の嵐

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「まぁどうぞどうぞ、汚い所ですが…」 カツオは冗談で殺虫剤を室内に撒くフリをして浮絵を事務所の中に迎え入れた。 「電話で聞いただけだからイマイチ解んなかったけどここって…」 「あぁ、ここは推進事業部っつってホテルが出来るまでの仮の連絡先なんですよ。」 カツオはコーヒーメーカーの中の温かなコーヒーを注ぎながら内装工事が思いのほか手間取っていてまだ晴れて営業開始とまではいかないんですと笑った。 「大変なんだね…」 「まぁね、産みの苦しみってヤツ?」 苦笑いを浮かべながらカツオは浮絵にコーヒーを手渡した。 「電話ありがとうございました。僕のほうも何だかんだ行き詰まってて…久しぶりに浮絵さんの声聞きたいなぁ~なんて思ってたら、ハハ、テレパシーってヤツですかね?」 またまたぁ~からかわないでと浮絵はおどけて見せたが内心は飛び上がる程嬉しかった。 「で今日は?」 「え?……」 突然素に戻ったカツオの顔を見て浮絵は飲みかけのコーヒーを置いた。 「大丈夫ですよ今はもう僕以外に誰も居ませんから…僕に話があったんでしょ?」 「あ、ハハ、そ、そうなの…」 カツオの右の目尻がイタズラに上がった。 「例のキャンペーンモデルの件、考えてくれたんですね?」 「その話なんだけど…」 浮絵のそわそわした雰囲気を悟ったのかカツオは月明かりが洩れる窓のブラインドをシャンと降ろした。
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