哀しみの騎士

4/5
前へ
/14ページ
次へ
「和仁!?」 愛子は、血を吐いた男に近づく。 「ったく、見んなって言ったのに…」 和仁は、口元の血を拭いながらフラフラと立ち上がり去ろうとした。 「アホ!」 愛子は、悲しさと怒りの混ざり合った複雑な感情を込め叫んだ。 「俺は、お前を愛してる。報われなくてもいい。ただ、愛しいお前を守りたい」 和仁は、哀しい目を愛子にむける。 「なんで、和仁は毎回そうやって自分勝手なの?」 「俺には、愛子が真剣に怒って真剣に心配してくれる意味がわからない。愛してるわけでもなんでもないのに。俺は、もう単なる他人だぜ?」 「そんなことを聞く和仁の意味がわからん」 愛子は、泣きながら和仁の胸元を叩く。 「愛してなくても、大切って思うよ。和仁こそ、なんで裏切ったアタシを愛してくれるん?」 愛子の涙と叫びを受け止め、和仁は心にズシリと重いものを感じた。 こんな俺を思って涙を流してくれる。 これ以上、彼女を苦しめてはいけない。 そう思った。 「自分の気持ちに嘘はつけん。俺の分も幸せになってくれ。俺は、騎士としてお前を一途に守る。そして、役目を果たしたら消える」 そう呟き、和仁は愛子に背中を向けて夜の闇に消えていった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加