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「和仁!?」
愛子は、血を吐いた男に近づく。
「ったく、見んなって言ったのに…」
和仁は、口元の血を拭いながらフラフラと立ち上がり去ろうとした。
「アホ!」
愛子は、悲しさと怒りの混ざり合った複雑な感情を込め叫んだ。
「俺は、お前を愛してる。報われなくてもいい。ただ、愛しいお前を守りたい」
和仁は、哀しい目を愛子にむける。
「なんで、和仁は毎回そうやって自分勝手なの?」
「俺には、愛子が真剣に怒って真剣に心配してくれる意味がわからない。愛してるわけでもなんでもないのに。俺は、もう単なる他人だぜ?」
「そんなことを聞く和仁の意味がわからん」
愛子は、泣きながら和仁の胸元を叩く。
「愛してなくても、大切って思うよ。和仁こそ、なんで裏切ったアタシを愛してくれるん?」
愛子の涙と叫びを受け止め、和仁は心にズシリと重いものを感じた。
こんな俺を思って涙を流してくれる。
これ以上、彼女を苦しめてはいけない。
そう思った。
「自分の気持ちに嘘はつけん。俺の分も幸せになってくれ。俺は、騎士としてお前を一途に守る。そして、役目を果たしたら消える」
そう呟き、和仁は愛子に背中を向けて夜の闇に消えていった。
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