ヒーロー

2/11
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
いつの間にか、満開だった桜並木の桜も、気が付けば葉桜に変わっていた。 時の流れとは不思議だ。 1日1日確かに小さな変化が在るにも関わらず、ふとした瞬間にその大きくなった変化に初めて気付くのだから。 4月の新鮮などこか浮き足だった気持ちも今はすっかりなりを潜めて、5月特有の気だるさだけがある。 新入生もここ───紅相(こうそう)高校の校風にすっかり慣れたのか、廊下を歩く顔はどれも堂々としている。 そんな新入生たちを詰まらなそうに眺めていたら、ふと視線を感じて振り返る。 「───なんだ…綾実(あやみ)か」 そこにはどこか疲れた馴染んだ顔があった。 「なんだ、綾実か。じゃないよ全く」 やれやれと肩をすくめて、綾実と呼ばれた少女は振り返った少女の隣に腰を下ろした。 それにどこか不満な顔をすれば、何よと睨まれる。 「別に。ただスカート汚れるけど大丈夫か、って心配しただけ」 「それそっくりそのまま梓(あずさ)に返したいんだけど」 そう綾実が頭一つ分高い梓に意地の悪い笑みを浮かべて、顔を覗き込む様に言えば、ばつが悪そうに目を逸らした。 「私は汚れたっていいの。此処で寝転ぶのが好きだから」 そう言って、校舎と校舎をつなぐ渡り廊下を覗ける位置にある大きな木下で寝そべる。 「スカートん中丸見えですよ、梓さん」 「見せてんの」 ほっとけと言わんばかりの梓にそうですか、と昨年までの綾実なら返していたかもしれない。───否、返していただろう。 実際今もそう返してしまう所だったのだから。 「ちょっとちょっと、昨年とは訳が違うんだから止めなよね。今年から此処も共学になったんだからさ」 ほら、と言って梓の腕を掴むと強引に上体を起こさせる。 ───此処紅相高校も長い女子高校の歴史に遂に終止符を打って、今年度から共学になったのだ。 まだまだ男子数こそ少ないが、上級生の女子達は飢えたハイエナよろしく、既に色めきたっている。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!