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「綾実、なんか疲れてる?」
ホームルーム委員の川島綾実はまだこの時期は色々と今年度の行事などの取り決めや昨年度の見直しで大忙し。
友人という立場上一応心配してやろうという、なんとも上から目線で尋ねれば睨まれた。
「はーい、心配してる振りして寝なーい。そして話をすり替えなーい」
再び寝そべろうと、あと少しの所で引き上げられ、うっかり舌打ちしてしまう。
「舌打ちしないの。癖になるよ。
───あと、今までの女子高乗りでうっかりしちゃ駄目だからね、いい?
男子もいるんだからね、無防備は駄目だよ」
幼い子供に言い含める様に言う綾実に、正直梓は辟易する。
4月から耳にタコが出来る程言われているのだから当然だ。
また、綾実も綾実で辟易している。
梓が耳にタコが出来る同様に、綾実も口を酸っぱくして注意しているからだ。
それでも梓は全くと言っていい程、意に介さない。
「そんなことよりあれ、あれだ。あのモテモテ君」
「ああ、うわさの矢澤君?」
「多分それだそれ。」
梓の分かりやすい話の逸らし方に苦笑するが、仕方ないな、と言わんばかりにそれがどうしたの、と聞いてやる。
これが川島綾実が川島綾実たる所以であり、能條梓の保護者と専ら噂されてしまう所以でもある。
「モテモテのヤザワ君があそこ歩いてたらまた呼び出されてたよ」
ん、と顎で渡り廊下を指す。
「───まあよく在る事だね。で?」
新入生のモテモテ君事、矢澤君。
彼が呼び出される事は日常茶飯事とまではいかないが、よく見掛ける光景だ。
別に驚く事でもない。
それがどうしたのだろうか。
彼を呼び出したのが、知り合いや友人だったのかもしれない。
梓の顔は聞かれる事を待ってました!と言わんばかりに輝いていた。
「まあまあ、落ち着け。慌てないで。
あのさ、いつもみたいにこうやって───」
両手の親指と人差し指をL字にして、それを長方形の形に成るように合わせる。
「覗いてたらさ、なかなかの色男──ヤザワ君?がいてね」
両手で作った長方形を右目を瞑って覗きこみながら右に少しずつずらすと、先程までは教材室の窓がその長方形の中に景色として収まっていたが、手の動きに合わせて今は綺麗に渡り廊下の端が枠に収まる。
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