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「やだ?」
なんて言ったのこの人。よく聞き取れなかったよ。
そう顔に書いてひょろりとした体躯の少年が半音上げて反芻する。
「うん、やだ」
もう一度そう言って、白い歯を輝かせた笑顔は校舎裏でも尚輝いていた。
「ただの話し合いじゃないじゃん。虐めはだめだよ虐めはー」
ね、と促すが、その表情は何処か悪戯めいている。
その掴み所のない所が、この場の雰囲気に合ってなく、不思議な空気を生み出していた。
少年達はすっかり少女の出現によって、色男への興が削がれたのか、毒気が抜けたのか振り上げた硬く結ばれた拳は今では解かれて、体の横の定位置に納まっていた。
「だからモテモ──じゃない…ヤザワ君が言ったみたいにふられるんじゃないのー」
あ、まだその様子じゃ告白もできてないか。たはーと無邪気に笑って己の額をぺしっと叩く。
子供っぽい仕草。
普段なら歯に衣を着せぬ物言いや仕草に小気味よさを覚えて笑顔したかもしれない。
しかし今は状況が状況だ。
その仕草や小気味いいまでの言い種。
それはモテモテ君の矢澤以上に危険な挑発だ。
実際野球部員たちの顔色を伺うと、先程以上に真っ赤に染まっていた。
何で自分の名前を知ってるんだとか、お嬢さんは誰ですかとかは置いといて、突然現われて何余計に窮地に追い込もうとしてるの!?今日は厄日ですか!?
矢澤は友人に、空気が読めないとたびたび説教されるが、それはあくまで物事を引っ掻き回すことがすきな性分だからで、実際に読めない訳ではない。
だから分かる。
否、分かりたくなど無かったが、分かってしまった。
どうやらこの女生徒は空気が読めない。 そして事態を混乱に陥れるトラブルメーカー体質だ。
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