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兄貴は部屋の中をキョロキョロと見渡し、クローゼットの中に俺と姉貴を押し込んだ。
洋服に埋もれ、震える身体を姉貴が抱きしめる。
隙間からは、兄貴が別の場所に隠れるのが見えた。
暖かい、柔らかい姉貴の感触。
だけど、震えていた。
あのいつも兄貴と並んで、頼もしい姉貴が、掠れる声で俺に"大丈夫だよ"と囁く。
弱々しい、一人の少女がいた。
両手で耳を塞いでいても、銃声と悲鳴はきこえていた。
男の叫ぶ声、お袋や叔母さん、親戚のお姉さんたちの悲鳴。
つんざく、気持ちが悪い。
そして、悲鳴も銃声も止み、静寂が訪れる。
沢山の足音が遠ざかる音も聞こえた。
クローゼットの隙間から、兄貴が出てくるのが見えた。
『…見てくる、お前らはそこにいろ』
小さな声でそう言い、足音を忍ばせて、廊下を歩いて行った。
『大丈夫、大丈夫だからね。お姉ちゃんが…守ってあげるから』
自分に言い聞かせているのか、ギュッと抱きしめる。
しばらく待つ、たった数分が、永遠にも感じられた。
そして、兄貴が部屋に戻って来た。
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