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「……別れを」
まだ手術着すら着ていないフェイは、ただ短く、そう言った。
「わ、かれって……なんだよそれ」
俺は思わずフェイの胸元につかみかかった。
「なんだよ、それ!」
「アレク」
がなる俺を抑えるようにジェイさんが俺の腕を掴む。
「だって!」
「二人ともか」
ジェイさんは叫ぶ俺を遮って言った。
それにフェイが首を横に振る。
「……フレッドはまだなんとかなる。止血はした。だけどもうジョンは――手の施しようがない」
「手の施しようがないとは?」
「ここまであんな乱暴な運び方で連れてきて、生きているのが奇跡みたいなものだよ。開いてないから正確なことは言えないが、角度から見て玉が肺を貫いて心臓の横に突き刺さってる。大きい血管もいくつか傷つけてるだろう」
「……何とか治せないのか」
「ここの施設では無理だ。他に運ぶにしたっておそらく、救急車の到着を待つ余裕もないだろう」
「マジか……」
グロウが、喘ぐように言った。
手のひらできつく片目を覆っている。
「なんで、急に……」
「原因を追及するのは勝手だが、別れを言ってやらなくていいのか?」
フェイの冷静な言葉に、俺はフェイの白衣を手放すと処置室に走った。
「ジョン!」
こらえきれずその名前を叫ぶ。
仲間にしてくれと言った俺を、最初は驚いたように見ていたくせに、ニッと笑って受け入れてくれたジョン。
日本のアニメにはまって時間があればアニメを見ていたジョン。
グロウがかっこいいからって突然髪の色を真っ赤にしてしまったジョン。
俺が日系だとわかった途端、仲間がいないところに引っ張ってきてはアニメトークにつきあわせてくれたジョン。
俺がやせないとミッション参加は無理だと言ったら、密かにダイエットしていたジョン。
何より、チームの、いや、俺にとって兄貴みたいだった、ジョン――
「嘘だ……」
転がるように廊下を駆けて処置室の扉にしがみつく。
嘘だ嘘だ嘘だ!
ジョンが、死ぬわけがない。
ジョンがもう、俺達に笑ってくれないなんて、嘘だ。
「ジョン!」
力一杯扉を開くと、そこにはベッドが一つ、置いてあって。
そこにジョンが寝かされていた。
足と脇腹を撃たれたけど、まだジョンに比べれば軽傷の方だったからと並べた椅子の上に寝かされていたフレッドが、俺の声に引かれるように起き上がり、ジョンを見た。
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