62人が本棚に入れています
本棚に追加
「生意気、でな。俺の言うことなんて、聞きやしなかった。そのくせ、兄ちゃんって甘えて――可愛かったん、だぜ」
「俺、そんな可愛くないよ! もっとだめなやつだよ! だから、もっと心配……」
声が嗚咽で詰まって、それ以上言葉が紡げない。
涙で視界がぐにゃぐにゃに歪んで、ジョンの顔を見たいと思うのに、全然見えない。
だけどそんな中でかすかに、ジョンが笑うのが見えた。
少し苦い、苦笑――のようだった。
「本当に、似て、やがる」
「ちがっ俺……」
「だ、から……」
呟きかけたジョンの言葉が、すうと、消えていく。
「ジョン!」
「……ああ、暗いな」
もはやその鳶色の瞳に感情の色はなかった。
ただぼんやり途中を見つめ、うつろに瞬く。
「ジョン! 俺、幸せになるから! 学校にも行くし、親父ともうまくやってみせる! だから、ジョン!……ジョン!」
俺はただ、叫んだ。
何とか引き留めたくて、ジョンの命をこちらに引き戻したくて、何度も何度も、その名前を呼んだ。
「ジョン!」
「アレク、しあ……」
それを最後に、まるで言葉を紡ぎかけた途中で時が止まってしまったかのように彼の唇の動きが止まる。
「ジョン! ジョン!」
俺は腰を浮かし、その身体を揺すった。
俺に言われてからダイエットをしたという少しスリムになった、でも俺に比べたら大分巨体のその身体を何度も、何度も。
でも、代わりに俺とつないでいた腕がぽとりと落ちただけで、彼がその言葉の続きを紡いでくれることは――ない。
「ジョン! 起きてよ! ジョン!」
「アレク!」
見かねたグロウが俺の身体を引いた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺がグロウを見上げると、グロウの朱色の瞳には鋭い痛みがよぎっていて。
それを見たら、もう本当にジョンは帰ってこないのだと、漠然と悟った。
すると、胸の底からまるで嵐みたいな、どうしようもない思いがこみ上げてくる。
だから俺はその感情のままに叫んだ。
「う、あああああああああっっ」
叫びはやがて嗚咽が混ざり、そうして俺は、慟哭に泣き崩れる。
最初のコメントを投稿しよう!