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ああ、そう言えば、陽の元で見るグロウの髪も久しぶりかもしれない。
ずっと、ジョンのたてがみみたいな髪はみていたけど。
そんなことをぼんやりと思いながら、俺はフェイの家に続く道を歩いた。
その道中、誰一人として、言葉は発しなかった。
□ ■ □ ■
俺達がフェイの家を訪れると、フェイはとても迷惑そうに俺達を迎えた。
鍵を開けて、そのまま研究室に戻ろうとしたけれど、何となく俺達の姿を見て察したらしく、ご飯を食べてくる、と言って家を出て行った。
家に入ると、ジェイさんはソファの長い方に腰掛け、グロウはその隣ではあったけどソファではなくカーペットの上に座り、ソファに背を預ける格好になった。
俺はというとなんとなく落ち着かなかったので、とりあえずお湯を沸かして、コーヒーを煎れることにした。
話をするのに飲み物は必要だと思ったからだ。
ただし煎れるコーヒーは例の、フェイ御用達のまずいやつ。
一応ジェイさんがいた時は、あまりのまずさに辟易としたらしいジェイさん自身がそれなりの豆を買ってきていたんだけど、アジトに居を移す時に持って行ってしまったからね。
残念ながらここにそこそこの豆はなかったんだ。
ま、我慢して貰うしかないよね、と思いながら、俺はインスタントコーヒーをお湯に溶かし、まずは二人の前にアヒルと犬のマグカップを置いた。
それぞれの前にコーヒーを差し出す時、ちらりと様子をうかがったけど、二人ともずっと無言で、視線は沈んでいた。
力ない、とも言える。
俺はため息をかみ殺しながらキッチンに自分の分のひよこ――アヒルとも犬ともまた別の版権のキャラクタ――のマグカップを取りに戻ると、またあの夜のようにL字になっているソファの短い方に座った。
多分ジェイさんは俺を待っていたんだろうと思う。
俺が腰掛けるのを確認してから、口を開いた。
「ずっと考えていたことがあるんだ」
話のスタートは、そんな言葉からだった。
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