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――眼鏡の男の人の名前は、ジェイと言った。
一度家に帰って休んだ後、学校に行く振りをして家を抜け出した俺は、またフェイの家に行った。
すると、彼はすでに起きていて、待合室……というにはお粗末なリビングのソファでテレビを見ていた。
フェイの趣味で色々なチャンネルの入るそのテレビを、ちょいちょいチャンネルを回してニュース情報をさらっていたらしい。
出会った時の印象が印象だったので、入ってすぐのリビングに陣取っていた彼に俺は少し警戒した。
でもむしろ俺に気づいた彼の方からこちらにやってきて、もう一度お礼を言ってくれた。
やはりきれいな仕草のそのお辞儀と、俺を見てすぐに礼を言いにきた律儀さに、俺は彼の人物像を認識し直すことにした。
どうやら会った時のあの凶悪そうな感じは緊急事態だったからであって、こちらの礼儀正しく知的そうな印象の方が彼のデフォルトらしい。
「俺は、アレクサンダー・キョウスケ・タカナシです。アレクって呼んでください」
俺が言うと、彼は少し目を丸くして、それからちょっと困ったような顔をした後、短く名前を名乗った。
それは、ファミリーネームもなく、略称だけの自己紹介だったけど俺は別に何も言わなかった。
あんなに、明らかに訳ありな風な人間に、わざわざフルネームを聞く方が馬鹿ってもんだ。
その辺はさすがにスラムに入り浸ってるから空気は読めるんだ。
「もう一人の人は?」
「まだ寝てる。麻酔が効いてるらしい」
言いながら彼は元いたソファに戻り、また、テレビを見始めた。
そうして放られてしまった俺は少し身の置き場に困る。
視線を彷徨わせた後、キッチンの方に向かった。
と言っても、フェイの家はキッチンとリビングに特に区切りがある訳じゃない。ついでに玄関もない。
入り口入って右側に行けばシンクやコンロがあり、左側に行けばソファがある。
家に入ってすぐの大きな空間がリビング兼ダイニング兼キッチン兼待合室――そんな感じの間取りなんだ。
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