4)会うは別れの始めなり

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「だから、自分がいると狙われるからとか言う馬鹿げた理由なら、前に言った通りぶん殴るからな」  グロウの言葉に、ジェイさんが顔を歪めた。    怒ってじゃない、苦笑でもない、嬉しくて笑おうとして、でも、それを遙かに上回る悲しさにできなかった――そんな顔だった。  今思えばそれは、ずっと自分の存在が他の人達の迷惑になると思い悩み続けていた彼に、それでも離れるなと言ってくれる友人がいることへの喜びと。  たとえその友の言葉があっても離れざる得ない現状に絶望しての表情、だったんだろうと思う。 「違う。そうじゃない。そうじゃないんだ」  ジェイさんは歪めた顔を手で覆うと、言って頭を振る。 「これしかもう、道がないんだ」  そう告げるジェイさんの声は、震えていた。 「――殺そう」  震えた声のまま、ジェイさんは言った。 「俺とお前を、殺すんだ」  そう言って、グロウを見る。  切迫した、尋常じゃない色をたたえるジェイさんの眼差しに気圧され、グロウは息を呑む。  それでも喘ぐように問うた。 「どういう、意味だ」   「あのとき撃たれたのは、ジョンじゃない。フレッドじゃない。俺と――お前だ」 「ジョンじゃない?」 「グロウ・マラスとジェイと呼ばれた男はあの日、死んだ――そういうことにする、ということだ」  その言葉に、俺はすべてを悟った。  どうしてジェイさんがそこまで憔悴しているのかも。 「グロウにジョンの後を継がせて、名前を継がせて、その後ジェイさんはどうするの?」  俺が問うと、グロウが驚いたように声を上げた。 「名前を継がせるってどういうことだ?」 「あのとき死んだのはグロウなんだろ。グロウ・マラス。だからあんたは今日からジョン・マルディーニを名乗るんだ」 「いや、名前はまだいいかもしれない。Red Lionはマルディーニの名前で通っているから」  ジェイさんが言う。  グロウは何となく言いたいことの意味がわかったようで、がしがしと頭をかいた。 「別に俺の姓なんてじいさんが適当につけたもんだからかまわねえけどさ」 「――本当にわかってる?」  俺は今度はグロウを見た。 「グロウ・マラスっていう人間がいたって言う社会的事実はなくなるんだ。二度と社会には戻れない。その覚悟はある?」  告げながら、俺はグロウに歩み寄る。  そして、ぐっとタートルネックの襟を掴んだ。
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