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「それに、俺のルーツはヨーロッパにある。見ておくのもいいと思うんだ。だから、ちょうどいいんだよ」
ジェイさんは重くなった空気を紛らわせるように、努めて明るい声で言った。
――その言葉の何割かは本音なんだろう。
でも大部分が強がりなんだって、俺にはわかった。
だってどんなに頭が良くたって、十八なんだよ。
それまで普通にハイスクールに行って、普通の学生だった十八歳なんだよ。
それを思ったら俺には、目の前にいる人がすごい人でもなんでもなく、ただの普通の少年に見えた。
「……だったら、俺もついて行く」
そのせいかな。
気づいたらそう呟いていた。
俺の言葉に、ジェイさんが驚いたような眼差しを向けてくる。
「グロウは仲間が一杯いるのに、ジェイさん一人なんて不公平だろ。だから、俺も行く」
なんかひどく子供くさい言葉しか出てこなくて、だんだん視線が落ちてしまう。
でも、この人を一人にしたくないと思ったから。
言葉をつなげる。
「俺も連れてってよ、ヨーロッパ」
「………―――馬鹿」
ジェイさんは、顔を歪めて呟いた。
笑おうとして、笑えなかった、そんな顔だった。
「ジョンと約束したんだろ。学校行くって。親父さんともうまくやっていくって」
「そう、だけど……でも!」
「ありがとう」
そう言って、立ち上がったジェイさんは俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「気持ちだけ、受け取っておく」
びっくりするくらい優しいその手に、気づいたら、目頭から盛り上がったもので視界がぐにゃぐにゃに歪んでいた。
泣くなんて子供くさい。
そう思うけど、止まらなかった。
「それに、俺がいなくなった時にこの馬鹿の暴走を留められるのは、アレクくらいだろ」
そう告げたジェイさんは、視線をおそらくグロウに当ててるんだろう。
でも俺は顔を上げてそれを確認することはできなかった。
しゃくり上げる嗚咽をこらえるだけで精一杯だったから。
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