4)会うは別れの始めなり

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「すまない。言い過ぎた。お前一人のせいじゃない。あの時ここで決めた俺達全員の責任だ」  努めて優しい声でジェイさんが言って、それからグロウの胸を軽く拳で叩いた。 「お前もな。心配してくれてるのはわかってるんだ。すまない」  すまない――その言葉を、俺は絶望的な気分で聞いた。  ありがとう、ではなく、すまない、なのだ。  心を決めてしまったジェイさんはもう、俺達の手は取ってはくれない。  あの時、ジェイさんを独りにしたくなくて、だからこそ誓ったあの約束。  それがまさか、彼を本当に独りにしてしまうなんて、思ってもみなかった。 「でも、死んだ人間が二人も狙われた場所にいるのはやっぱりよろしくないんだ。俺達は少なくとも別れた方がいい」  同じ言葉を繰り返し、ジェイさんはグロウの肩を叩いた。 「それで永遠に逃げ切れるなんて思っていない。でも今なら、俺だってやれることがある。この七年、組織を作るなんてできなかったけど、これからだったら作ることもできる」  ここで、組織というものを学んだからな――  そう告げて、ジェイさんは寂しそうに笑った。  その笑みを見て、俺は思う。  もしかしたらデザート・ウルフに骨を埋めようと思ったことが、一度はジェイさんにもあったのかもしれない。  それができるかもしれないと――淡いほどの希望ではあったけれど。  そう思いたくなることを、誰も責められない。  多分グロウもそう思ってたはずだ。  だって、たったの十八歳と十六歳だったんだから。  だけどその希望は砕かれた。    それでも甘い夢を見られるほど彼は――楽天的ではない。 「次に仕掛けられた時に十分戦えるだけの素地を築く。それには戦闘集団の組織でないといけない。ある意味ちょうどいいスタートなんだよ」  それは逆に、デザート・ウルフのメンバーを戦闘集団になんてしたくないという、ジェイさんの意志でもあった。  あのチームの誰も望んでスラムにいるわけじゃない。  ただ、生まれたところがそこに近かっただけ。  そう言ったジョンの言葉を受け止めるなら、それを戦うための兵士にするのは、あまりに酷だから。
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