4)会うは別れの始めなり

29/30
前へ
/134ページ
次へ
「……もう、決めたんだな」  それまで静かに聞いていたグロウが、かすれた声で呟いた。  ジェイさんは静かに頷くと、まだ胸ぐらを掴んだままのグロウの頭を抱き寄せた。 「いなくなるなって言われたのに、結局、お前を一人にするな……悪い」 「独りになるのは、お前の方だろうが。謝るなよ」 「七年間、なんだかんだ言って楽しかったのは、お前のおかげだ。お前と、ラヴィのな。お前達がいなかったら、もっと暗い人間になってたかもしれない」 「ふざけんな。今でも十分暗いくせに、これ以上どうなるってんだよ」 「違いない」  はは、と声を上げてジェイさんが笑った。  グロウも、泣きそうな顔を必死に歪めて、笑う。 「ヨーロッパ行くならラヴェンダーには……会えねえか」 「会えないな。良家に引き取られた上にこっちは完全に日陰者決定だ。俺達はもう死んだ人間なんだから、それ以前のものは切り捨てざる得ない」 「あいつ、泣くかな」 「だろうな。意外に泣き虫だから」 「意外じぇねえよ。しょっちゅう泣いてるよ。お前が気づいてないだけだ、馬鹿」 「グロウに馬鹿扱いされるとは心外だぞ……でも、兄としては心配だな」 「ああ」  軽口は叩いていたけれど、どちらも離れようとはしなかった。  特にジェイさんが離れがたいようにずっと、友の身体を抱きしめていたから。  その理由は、すぐにわかることになる。  どちらからともなく手を離し、感情を抑えよう一つ息をついたグロウがこう問うたから。 「……いつ立つんだ?」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加