62人が本棚に入れています
本棚に追加
「……今夜」
「「今夜!?」」
グロウだけでなく、二人を見守っていたはずの俺まで、思わず声を上げた。
「ジョンを送ったら立とうと思ってた。チケットはもう取ってある」
「そんなにすぐでなくてもいいだろうが」
「長引けば長引くだけ、別れが辛くなるからな。だから見送りも来なくていい」
「だが……」
「言っただろ。狙われてるんだ。お前は周辺を固めることと身を守ることに専念しろ」
そう言われグロウはそれ以上言い募ることはできなかったらしい。
悔しそうに顔を歪めると、視線を落とした。
そんなグロウを苦笑と共に眺めてから、ジェイさんは俺の方を見た
「こいつを、頼む」
そんな頼るような言葉を初めて聞いたので、俺は驚いてまじまじとジェイさんを見上げた。
「ウザイくらいにうるさいわりに、寂しがりやだし、扱いづらいけど、もう俺が側にいられない代わりに面倒見てやってくれ」
面倒――その言葉で感情と照れを隠したジェイさんに向かって、俺は一つ頷いた。
それくらいしかもう、彼にしてあげられることは、なかったから。
「ああ、でも、楽しかったな」
そう言ってジェイさんは、がらんとしたフェイの家を眺めた。「Liberty Hillでの七年間も、ここでの数ヶ月も」
Liberty Hillという孤児院での七年は俺には知りようがない。
でも、ここでの数ヶ月は俺も知ってる。
かなりばたばたの大騒ぎで、ジェイさんはグロウのために走り回らされてうんざりしたような顔をよくしていた。
だけど、その生活は彼なりに楽しかったんだろう。
これから赴く、誰一人仲間のいない異境に比べたら、よっぽど――
「ありがとうな」
そう言って彼は、珍しいくらいに屈託のない笑みを、浮かべた。
そしてそれが、俺がこの春経験した二つ目の別れだった。
最初のコメントを投稿しよう!