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「おめでとう、アレク」
「ありがとう」
「……アレクさん、ジェイさん、これ」
そんな会話をする俺達に、そう言ってシャンパンの入ったグラスがプラスチックのコップで手渡された。
受け取ってそのメンバーが去っていった方を見ると、彼は他の人にもコップを配って回っているところだった。
乾杯用、というところだろう。
なぜシャンパングラスじゃなくてコップなのかというと、答えは簡単。
うちにはそんなしゃれたものはないから。
あっても使い道がほとんどないようなものは、すぐに割る馬鹿がいるうちみたいな組織には置いておいても意味ないでしょ。
「グロウ! 挨拶!」
シャンパンが全部に巡ったのを確認して、誰かが叫ぶ。
「え~……俺そういうの苦手なんだけど」
「苦手でも何でもいいからやれ」
そう言って、ジェイさんがグロウの身体を押し出した。
蹴躓きそうになりながら人の輪の中にまろび出たグロウは、シャンパンの入ったコップを手に「え~」と喉を鳴らすような声を一言呟いた。
「本日はお日柄も良く……」
「そこからか!」
「長い長い! もっと手短にしてくれ! リーダー」
即座にBlaze Wolfのメンバーからブーイングが上がる。
「うるせえ! わかったよ!」
グロウはがなるようにそのブーイングを上げたメンバー達に言って、少し高めにコップを持ち上げた。
「今日、うちの唯一の頭脳派にして世話係にしてみんなのお母さん的ポジションのアレクが二十二歳になるわけですが」
「お母さん的ポジションって、なにそれ」
「とりあえず祝ってやってくれ! てなわけで、かんぱい!」
俺のツッコミは一切無視でグロウが言って、コップを高く上げた。
「かんぱーい!」
それに合わせて周りから乾杯の声が上がる。
ああもう、いいや。
ここで興をそぐのもよろしくないし。
「かんぱい!」
俺が言うと、今度は周りからグラスが差し出されて、次々に重ねられていった。
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