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その赤いものはひらひらと俺の前で手を振ってみせる。
「グロウ……」
「なんだ? ずいぶんナーバスだな、今日は」
「……グロウと違って繊細なんだよ、俺は」
「まあいいや。ちょっと避難させてくれ」
「フェリスさん?」
「そう。なんかやったら絡んでくるんだよな~」
「それってさあ……」
俺はグロウを見上げて彼女の目的を告げようとして、やめた。
他人の気持ちを告げるのはフェアじゃないし、それに何より――グロウ本人が本気で怯えている風だったからだ。
フェリスさんも可哀想に。
と、思いつつため息をつくと、俺はまた広場の方に視線を投げた。
笑顔で会話をしつつも、どこか疲れた風なところのあるジェイさんの姿をぼんやりと眺める。
「……ジェイか?」
すると、俺の視線を追ってグロウが言う。
普段他人の都合や機微には全く疎いのに、こういうときの鋭さは本当にいやになる。
こういうときのグロウはどうせごまかしきれない。
諦めた俺は、素直に頷いた。
「あいつ、危なっかしいからなあ」
言って、グロウはがしがしと頭を掻いた。
「でかい敵に挑むって言っても、言わないと俺ら頼ろうとしてくれない。独りで全部やろうとする。あれはあいつの強さでもあるけど最大の弱さだ」
「……俺もそう思う」
「でもまあさ、それならこっちが関わっていけばいいだけの話なんだけどな」
「――え?」
「そうだろ? あいつが隠すってんなら、こっちが暴きに行けばいい。んで協力してやればいいだけの話だ」
「だけって……」
「そうやってずっとやってきた。ヨーロッパ行って性格のひねくれっぷりには拍車がかかったが、基本スタンスはかわらねえよ。昔ほど俺もなにもできないガキってわけでもないしな」
「そういうもん?」
「そういうもんだろ。あいつにはさ」
言ってから手にしていたワインをぐいっと飲むと、グロウは一つため息をついた。
「あいつはそれで簡単なんだけど、問題はラヴェンダーなんだよな~……なに考えてるのか最近さっぱりわからん」
ぶつぶつと文句を言いながら腕を組むグロウを、俺は呆然と見た。
簡単、とグロウは言った。
あんな自分から崖に走って行ってしまうような人を、自分たち側に引き留めることが簡単だと。
「……っふ」
俺はついそれで吹き出してしまった。
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