62人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「じゃあ何か食べに行く? ここ、先生が自分の研究に寝食忘れるタイプだから、病人以外の世話はあまり期待できないんだ」
言いながら、自分でも不思議だった。
相手とは昨日会ったばっかり――というだけでなく、拳銃を持っていたような危険人物だというのに。
俺がそんな思いを巡らせていると、どうやら同じようなことをジェイさんは思ったらしかった。
「アレクは俺のこと、怖くないのか?」
そう言って、わざとらしく懐から拳銃を出してみせる。
俺はもちろんそれを見て息を呑んだりはしたんだけど、ふるふると首を振った。
「本当に怖い人は、そんなものわざわざ見せる前に撃ってるよ」
俺の台詞に、ジェイさんは目を丸くすると、ふ、と笑った。
「確かにそうだな」
そう言って拳銃をしまう。
俺をそれを見て、うーんと、心の中で唸ってしまった。
浮かべた笑顔は柔らかいのに、アイス・グリーンの眼差しや伏せた目元にどこか哀愁みたいなものが漂っていて、俺はどうしてか顔が熱くなるのを感じてしまったからだ。
だから、男の俺に対してもこれだから、この人女の人にモテそうだなあ。
と、すでに熱狂的なファンが一人いることをまだ知らない俺は、思わず唸ってしまったというわけ。
「しかし、もう昼飯時か……なら、そろそろでもいいはずなんだがな」
そう呟いて、ジェイさんは壁に掛けられた時計を見上げた。
やはりこちらもいい年した大人が使うには恥ずかしい、世界一有名なネズミのキャラクターの形をした時計は十一時を少し過ぎたくらいを指している。
何がそろそろなのかわからない俺が首を傾げると、突然大声が上がった。
フェンが病室代わりに使っている部屋の方からだ。
「あ――――――腹が減ったあ! じいさん、飯!」
フェンの安アパートを揺るがすくらいのその大声に、俺は思わず身をすくめ、それから言葉の内容に呆然とした。
「飯!?」
そんな俺の驚きなどつゆ知らず、声の主はさらに叫ぶ。
「て、うお! めっちゃいてえぞ! なんだこれ!」
その叫びに、ジェイさんはまるで予想していたかのように、やれやれ、と肩をすくめると立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!