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「相変わらずとことん動物的なやつだ。予想に違わず腹時計で目を覚ますとは」
でも、そんな風に呆れた口調で言いながら、目元がホッと和んでたこと、俺はちゃんと見ていたんだけどね。
□ ■ □ ■
俺がジェイさんを先導して病室に行くと、すでに主治医のフェイがそこにいて、騒々しい怪我人をしかりつけているところだった。
「シャーラーップ(Shut up)! なんなんだ君は騒々しい! おかげで献体のラットが逃げてしまったじゃないか」
「え……やばいだろ。それ探せよ、あんた」
「そ・ん・な・こ・と・よ・り!」
「そんなことで片づけていいのか!? それ!?」
「私は静寂をこよなく愛する男なんだ。それを訳のわからないシャウトで邪魔しないでくれ。しかも目覚めて早々……ん?」
フェイは、そこで初めて自分が説教している相手が、昨日まで意識不明だったことを思い出したらしかった。
ふむ、と腕を組むとまじまじとその男を見つめ、それから脈をとった。
「……脈も異常なし。あれだけ血を垂れ流した割には元気そうだし、驚くべき体力だな」
「……てか、ここ一体どこなわけ? あんた誰だ?」
「――SKID ROWだ」
フェイの代わりに答えたのは、俺の後ろに立っていたジェイさんだった。
ごめん、と俺に断って部屋に入ると、騒々しい怪我人の側に歩み寄る。
「ロサンゼルスのスラムだよ。グロウ、お前はほとんど意識なくて覚えていないんだろうが、瀕死の状態のお前を、そこのフェイさんと、このアレクくんが助けてくれたんだ」
「俺?」
突然名前を出されて驚く俺に、ジェイさんは小さく笑って視線を軽くこちらに投げた。
「たまたま曲がり角でぶつかっただけの俺達を、知り合いの医者のところまで連れてきてくれたんだ。ついでに足りない血液も分けてくれた。礼を言えよ」
ジェイさんの言葉を受けて、騒々しい怪我人が俺の方に顔を向けた。
つり目がちな目で、まるで睨むようにこちらを見つめてくる。
対して俺も、そのド派手な外観に思わず目を剥いた。
ばっさりと顔にかかった髪とその下から覗く瞳の色は、熱に溶かした鉄みたいな鮮やかな朱色だったのだ。
でも同時になるほど、とも思う。
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